2016年は大きな転換点だった

2016.12.27発行 Vol.285
2016年も残すところわずかになりました。今年も大変お世話になり感謝しています。

私は、2016年が社会の大きな転換点だったと、未来に言われる年になるのではないかと思っています。

ひとつはAI(人工知能)が目に見える形で進歩したことです。日経新聞を読んでいても、AIの話が出てこない日がほとんどないくらいです。その中でも何と言っても私を驚かせたのは、AIが囲碁の世界的な名人に勝ったことです。去年までには将棋やチェスでAIは強さを見せていましたが、囲碁ではまだ人間の名人には勝てないだろうと言われていたのが、囲碁でも一気に人を抜くレベルに達したのです。自分で学習し考える能力を持ったAIですが、先ほどの囲碁のチャンピオンとの対戦では、人がこれまで打ったことのない手を披露し、人々を驚かせました。今後も、ますますAIは進歩し、その活用がビジネスなどの分野で進むことでしょう。このことは、将来、多くの人の働き方を変え、さらに所得の2極化を進めることになる可能性が大きいと私は考えます。

その2極化に関連してですが、2016年はポピュリズムが大躍進した年でもありました。まず、6月に英国で国民投票が行われ、EUからの離脱が決定しました。英国のここ3年ほどのGDP成長率は、ユーロ圏全体や、その中でも「優等生」と言われるドイツよりも断トツといっていいくらい良かったのです。当時のキャメロン首相や知識階級の人たちは、もちろんそのことを知っており、それがEUに加盟しているからだと考えていましたが、繁栄から取り残された人たちは、相対的に貧しい自分たちの現状は、EUに加盟しているせいだと考え、結局EUからの離脱が決まってしまったのです。

そして、ご存知のように同じことが米国でも起こりました。大多数のマスコミが見誤るほど、現状に不満を持つ人のパワーはすごかったのです。

さらには、12月に入り、イタリアでは議員定数の削減などを行う憲法改正の国民投票が行われましたが、現政権への信任投票の様相となり、結果、現レンツィ首相が辞任に追い込まれるということになりました。イタリアではポピュリズム政党の「五つ星運動」が勢力を伸ばしており、かれらの政策の1番目が「EU離脱」です。もし、イタリアがEU離脱ということになれば、GDPの20%程度あると言われる銀行の不良債権問題が一気にクローズアップされることとなります。ちなみに、GDPの20%の不良債権とは、日本が1990年代に経験したバブル崩壊とほぼ同じ比率ですから、そのインパクトの大きさが分かります。イタリアの不良債権問題が噴出すれば、ユーロ圏全体の大問題に発展する懸念も小さくありません。

今後、AIやロボットがさらに発達することは間違いありません。それは、先にも触れたように、2極化をさらに進めることとなります。そのことが、ポピュリズムをさらに高めることとなるでしょう。

もうひとつ、今年私が注目したことがあります。あまり大きくは取り上げられなかったのですが、ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば「すでに起きた未来」が起こったと私が感じたことがありました。それは、スイスで行われた国民投票です。全国民に一律約27万円を毎月支給しようとするものを国民投票に諮ったのですが、結果は否決。しかし、私は、同じようなことが今後世界各地で起こると考えています。

2極分化がさらに進み、ポピュリズムが高まれば、政府は分配を変えることを考えざるを得ないからです。AIやロボットにより職を奪われる人が多数出る一方、それらを使って飛躍的に伸びた生産性を享受する人たちとの所得格差がさらに広がる中で、税という形で高所得者からお金を集め、それを低所得の人たちに分配するということをせざるを得なくなるのです。

いずれにしても、世界規模で社会全体が大転換期を迎えていると思います。2017年にもこれらのトレンドは続くと考えられるのでその動向に注目です。

来年も引き続きよろしくお願いいたします。
(プレジデントオンラインに連載している文章に少し手を加えました。)

【小宮 一慶】