英国のEU離脱に思う

2016.06.14発行 Vol.272
 英国のEU離脱問題が世界で大きな注目を浴びています。その影響から、EU離脱派が優勢と伝えられると、世界経済の混乱を懸念して円買い・ユーロ売りなどが加速し、ドルに対しても円高が進んでいます。日本の株式市場のみならずニューヨークダウなどもこの問題の影響で弱含んでいます。

 今回のメルマガではこの英国のEU離脱問題について、論点を整理し、問題の本質を考えてみたいと思います。

 英国内でEU離脱を願う人たちには、さまざまな動機があります。ひとつの大きな問題は難民問題です。シリア情勢などを受けて、欧州には難民が大量に押し寄せ、EU域内に入った難民が英国にも押し寄せる懸念が大きいのです。EU域内では、原則、人の移動が自由だからです。難民のみならず、以前からの移民問題も根深い問題です。

 さらには、米国同様、所得の二極化が進み、中間所得層が凋落する傾向が見えることです。米国ではこの層がトランプ氏を強力に支持していますが、英国では、EU離脱派の大きな勢力になっています。中間層以下の家計の閉塞感がEU離脱の大きなエネルギーとなっているのです。EU加盟による関税撤廃などにより生活が苦しくなったと考える人たちも少なくないのです。

 その背景には、EUの権限が強いということがあります。「ひとつの欧州」をめざすEUは、各国の主権に対する権限が強く、欧州司法裁判所は英国の最高裁判所よりも優位に立ち、EUの法令が英議会制定の法律よりも上位にあるという問題があります。EUが決めたことに対し、英国独自での決定が制限されることも少なくありません。さらに、ギリシャ問題などがあり、銀行の監督などのEUの権限が強化される方向にあります。EUを維持していくには、経済的だけでなく政治的にさらに強まりを強化する必要があるとの意見が強く、実際、各国の予算もEUの承認がなければ執行できないようにするべきだという意見まであるほどです。英国の独立性や改革の風潮が失われるという懸念を離脱派は心配しているのです。

 英国では、70年代まで「英国病」とまで言われた深刻な経済停滞があり、サッチャー政権のときに大胆な規制緩和でそれを脱したという経験があります。政策の自由度をEUにより奪われていると離脱派は考えているわけです。

 一方、離脱反対派は、ひとつには、EU域内では現状撤廃されている関税が復活すること、金融街シティーではその地位が低下することなどを懸念しています。また、そもそもEUは「ひとつの欧州」を目指したものです。第二次世界大戦直後に、二度と欧州を戦場としないために「欧州石炭鉄鋼共同体」などが設立され、それがECを経てEUへと進化していったという経緯があります。20世紀前半の二度の大きな世界大戦の主戦場となったのが欧州で、その惨禍を二度と起こさせないという強い決意がEU発足時にはありました。

 現在のところ23日の国民投票の結果は予断を許さないものです。EU時代に長く暮らしている30歳以下では7割が離脱反対、一方、60歳以上では6割が離脱を望むという調査結果もあります。また、労働者層の大半は離脱を支持、都市部を中心とした高学歴層は残留支持派が多いとも報道されています。

 いずれにしても、グローバル化が進む中で、EU離脱はそれに逆行する動きとなりますが、国家や世界とは何かということを深く考えさせられます。日本でもTPP加盟が大きなトピックとなっていますが、それに関連する経済のグローバル化や国家間の障壁撤廃により、良い意味でも悪い意味でも日本のあり方を大きく見直すことになることも英国の問題をきっかけに考えておかなければなりません。

【小宮 一慶】