聞くという喜び

2016.08.09発行 Vol.276
 私は年に200か所ほどで講演や研修を行います。毎日のように「話す」ことが仕事です。話すことを難しいと思っておられる方も多いかもしれませんが、これは慣れの問題です。慣れれば、それほど難しくはありません。「ネタ」さえあれば、慣れればいくらでも話すことができます。後は、その内容が良ければ、聞く方たちに喜んでもらえます。

 一方、他の方のお話し、特に講演などを聞く機会は、残念ながらそれほど多くありません。もし、聞く機会、それも著名な方たちのお話を聞く機会があればとても有難いと思っています。私にとって、そういう貴重な機会のひとつが、当社で主催している「新潮流セミナー」です。先週に行いましたが、今年で3年目になり、私以外に4人のスピーカーにお話していただきました。主催者としての役得で、もちろんお客さまにとって一番と思う方たちを選んでいますが、私が話を聞きたい方たちに毎年講師をお願いしています。

 今年の新潮流セミナーでは、政治アナリストの伊藤惇夫さん、外交評論家の岡本行夫さん、投資家のスパークス・グループ代表阿部修平さん、島津製作所会長の中本晃さんにお話をいただきました。

 伊藤さんからは、参院選や都知事選のお話や、今後の憲法改正などのお話をうかがいました。憲法改正において、自民党の憲法草案がそのまま用いられることはないということ、「安倍政権は商売の上手なうなぎ屋さん」との話が印象的でした。アベノミクスによりうなぎのにおいを扇風機でかがせて本物のうなぎを食べられるという期待感を高めているが、本当にうなぎにありついた人はいないというものです。

 岡本さんは、論理的に「トランプ大統領はない」と説明されました。トランプ現象、英国のEU離脱、テロは「グローバリゼーションのバックラッシュ(反動)」だともおっしゃっていました。グローバリゼーションにより、二極化が起こり、乗り遅れた人たちが多くなったということです。また、尖閣の問題、ひいては日本の安全保障には米国の関与が不可欠ともおっしゃっていました。印象的なのは、「日本はエクスクルージブ、ではなくインクルージブでなければならない」、つまり、排他的でなく、外へも目を向け、他を許容する意識が必要とのことです。

 日本一の株式投資家であるスパークスの阿部社長からは「リアリティー(現実)とパーセプション(感じていること)」のギャップが大きい、つまり、価値を持った企業が多いのに、株式はまだ下がると思っている人が多い今こそ株式投資のチャンスだというお話が印象的でした。

 島津製作所の中本会長からは、「人そして社会に役立つものを提供し続ける」という目的と「高収益企業」という目標を達成するための原動力が「イノベーション、新たな価値、新たな顧客の創造」だというお話をいただきました。お話の中で、発明家だった二代目島津源蔵氏と同社でノーベル賞を受賞された田中耕一シニアフェローの共通した特色として、「好奇心」、「明確な目標」、「あきらめない心」、「優れた観察眼」の4つを挙げられました。その原動力は仕事好き、興味だということです。

 いずれの方のお話も非常に興味深く、大変勉強になりました。ときに、話すだけではなく聞くことも大切で、とても有難いと思った一日でした。

 余談ですが、「聞く」ということは難しいことです。それも素直にきちんと聞くことはとても難しいことです。東洋哲学の大家、安岡正篤先生は、「人は話を聞く態度を見ていると、その人物の練れ具合が分かる」とおっしゃっていますが、聞くということ、本当に人が言っていることを虚心坦懐に聞くことはとても難しいことですね。

【小宮 一慶】