考え方をベースにした経営

2015.11.10発行 Vol.258
 このところ『論語』に関する本を書いており、『論語』を読み返す機会が増えていますが、やはり人生や経営の基軸になることが多く、とても勉強になります。

 例えば「利によりて行えば怨み多し」という有名な言葉が『論語』にはあります。自分の目先の利益だけを考えて行動すると、恨みを買い、結局うまくいかないということです。それに関連して「先義後利」という言葉があります。先に世の中のためになる「義」を考えるべきだという意味ですが、「義」を優先した行動が、結局は自分にも利をもたらすということも意味しています。昨今の東芝はじめ、東洋ゴムなどの不正事件を見ていると、経営者にしっかりとした基軸がないことが原因のような気がしてなりません。

 『論語』は約2500年前に書かれた文章ですが、生き方やビジネスの真理があります。『論語』をはじめ、長い間読み継がれた古典には普遍の真理があるのです。

 京セラ名誉会長の稲盛和夫さんは、「成功の方程式」として、「考え方×能力×熱意」だとおっしゃっています。もちろん、経営やビジネスを行っていく上では、能力や熱意が必要なことは言うまでもありません。しかし、稲盛さんがおっしゃるには、能力や熱意はゼロ点から100点まであるが、考え方はマイナス100点からプラス100点まであるということです。考え方が違っていると、どんなに能力が高く、熱意があっても成功はおぼつかないということなのです。

 安倍首相が名目国内総生産を600兆円にまで上げることを「新3本の矢」で掲げていますが、実は日本の名目国内総生産は1990年代初頭から500兆円前後を行ったり来たりで、ここ20数年間成長から取り残されていることはあまり注目されていません。もちろん、これには、冷戦構造の崩壊や金融バブル崩壊も大きく原因していますが、私はもっと根底には、90年代初頭から戦前のまともな教育を受けていた人たちが、政財界の第一線から引退したことが大きいのではないかと考えています。私は、戦前の教育は多分に軍国教育や全体主義教育を含んでおり、必ずしも肯定しているわけではありませんが、儒教や仏教の考え方を根底にした生き方の教育も行っており、戦後教育ではそれらが完全に無視されていることも事実です。それが、精神的にも健全なリーダー育成を大いに阻み、「金さえあれば何でもできる」的な風潮を蔓延させていると考えています。

 経営には理論も必要ですが、それだけでうまくいくのなら、世界中の会社が上手くいっているはずです。稲盛さんがあれだけ短期間でJALの再建に成功したのも、考え方を求心力にした経営をしたからだと私は考えています。正しい考え方をベースにした経営を行うには、経営者が正しい考え方を持たなければならないことは言うまでもありません。『論語』などの古典や仏教書、あるいは松下幸之助さんや稲盛和夫さんの本をお読みになることを強くお勧めします。

【小宮 一慶】