米大統領選に思う

2016.11.08発行 Vol.282
今日8日には米国の大統領選挙があります。今回も民主党と共和党という2大政党の候補者の対決ですが、これまでの大統領選とはその流れや背景が大きく違っているような気がします。

皆さんもご存知のように、共和党は「保守」、民主党は「リベラル」という色彩が強く、共和党は主に富裕層、民主党は労働組合などを支持基盤としているという傾向があります。もちろん、富裕層の中でも民主党支持者はいますし、労働者にも共和党支持者は従来からいました。しかしその対立軸は、比較的はっきりしたものでした。

しかし、今回の選挙では、ドナルド・トランプ氏の支持者は、従来の保守層というよりは、いわゆる「プア・ホワイト」と呼ばれる、繁栄や成長に取り残された白人層という傾向が強く出ています。この点においては、英国のEU離脱の国民投票と似た点があります。現状に非常に強い不満を持っており、それは移民や経済政策などが原因だと考えている点においてです。

トランプ氏は、強いアメリカ(Great America)を取り戻すことを主張していますが、その主張は、クリントン氏と同じく「内向き」の傾向があります。トランプ氏は日本にも防衛の負担増を求めていますし、クリントン氏も含めTPPには反対の立場です。中東やアフリカで大規模な内戦やテロが頻発していることや、中国はじめ、同盟国と言えるフィリピンまでもが米国と一線を画すという状況は、米国の影響力が従来のものでなくなりつつあることと関係しているでしょう。

米国の力が落ちていると言えばそれまでですが、実は、オバマ大統領が選ばれた2008年の大統領選挙でもその傾向はあったのではないかと私は思っています。選挙はちょうどリーマンショック(同年9月)の直後でしたが、バブル崩壊後の大ショックと所得の二極化が進む閉塞感の中で、これまでとは違った「Change」を主張した黒人のオバマ氏が大統領に選ばれました。

今回の選挙もその閉塞感を引きずったまま、二極化がさらに進んだ状況での選挙ですが、オバマ大統領が選ばれた時と大きく違うのは、米国に前向きの姿勢が見えないことです。オバマ氏はしきりに「Yes, we can.」を強調し、国民もその時は非常に前向きの姿勢で熱狂しました。しかし、今回はそのような前向きの熱気はありません。クリントン氏、トランプ氏は接戦を演じており、どちらが選ばれるかは分かりませんが、お互いのののしり合いとスキャンダルの暴露合戦といった様相で、とても後ろ向きです。また、国民も、とくにトランプ氏の支持者は、移民などに対し、非常に排他的な態度を示しています。

米国の大統領選挙は、各州の選挙人を獲得するという少し変わったやり方をしますが、州ごとで多くの得票を得た候補者が、その州のすべての選挙人を獲得するというやり方です。ですから、多くの選挙人がいるフロリダ州などでの動向次第では、どちらが勝つかは分かりませんが、いずれにしても、選挙後も選挙戦を引きずった米国の精神的分断が起こらないことと、健全な外交政策が保たれることを願う次第です。

余談ですが、ずっと昔、1984年の大統領選挙の時、私は留学中の米国にいました。親しいカナダ人の友人に誘われて、選挙当日の夜、共和党系の学生の家での小さな集まりに行きました。米国では、学生でもどちらかの政党を熱心に支持しており、政治に真剣に向き合っていることに感心したものです。

【小宮 一慶】