米国債の格下げと経済の底流を流れるもの

2011.08.09発行 Vol.156
 スタンダード・アンド・プアーズ社による米国債の格下げが市場を動揺させています。8日のニューヨーク市場ではダウ工業株が600ドル以上の下げを記録しました。東京市場も動揺しています。しばらくは、市場は神経質な展開をすると予想されます。

 米国の債務上限引き上げの際の今後の財政赤字削減額が小さかったことが格下げの原因ですが、米国景気の先行き懸念や欧州の財政危機がイタリア、スペインにも飛び火しそうなど、不安材料が目白押しなことも市場の不安心理を駆り立てています。

 そうした中、市場介入により一時は80円近くまで戻したドル円相場もまた円高に進んでいます。円高は、東日本大震災で加速するであろう製造業の海外進出(=国内産業の空洞化)をさらに助長する働きをします。いずれにしても現状の日本経済にはマイナスのほうが大きいと考えられます。

 そもそも今回の格下げの源流をたどれば、まず一義的には「サブプライム危機」に行き着きます。2007年8月のフランス大手の商業銀行であるBNPパリバ傘下の投資ファンドが、サブプライムローンの証券化商品を大量に抱え込んで破綻状態に陥りました。いわゆる「パリバショック」が起こったのです。米国、欧州で金融危機が発生しました。欧州中央銀行、米国のFRB、日本銀行など各国の中央銀行が連日大量のドル資金を市場に供給することで、金融危機を最小限にとどめようとしましたが、翌年の9月15日にリーマンブラザーズが破綻、金融危機が「世界同時不況」へと進みました。

 各国政府は、景気を立て直すために財政支出を拡大させました。米国政府は約7800億ドル(当時のレートで約80兆円)、中国政府は4兆元(同、約55兆円)などの景気対策を行いました。欧州各国も財政支出を増やしました。それにより、なんとか不況を乗りきろうとしたのですが、経済が十分に回復する前に、こんどは増やした財政支出のせいで、財政問題がクローズアップされたのです。ギリシャの債務の粉飾の露呈が発端でしたが、まず、2010年初に欧州で財政危機が露呈し、次いで今年に入り米国の財政赤字問題が大きくクローズアップされて今回の格下げに至ったのです。

 そして、より深く考察すれば、今回の一連の経済の流れは、そもそも経済発展で格差が拡大した中で、低所得者層の底上げが必要だったことが底流にあることに気づかされます。2000年代初頭からの米国や欧州の景気拡大の中で格差が広がりつつあった低所得者層に住宅を持たせる手立てとして米国ではサブプライムローンや他の国でも各種の補助金などが利用され、それがバブルを生んだり、財政拡大を余儀なくしていったと考えられるのです。そう考えると、今後も格差の拡大は、バブルを繰り返し、財政をさらに悪化させる要因になるとも考えられるのです。

 そして、もう一つ考えなければならないことは、もちろん日本の財政赤字です。現状の米国の財政赤字が対名目GDP比110%弱なのに対し、日本は200%に迫る勢いです。日本と同じ格付けのスペイン国債はドイツ国債に対し約3%の上乗せ金利が必要になっています。日本は国債の95%が国内で消化されているから大丈夫などとたかをくくっていると、ある日突然日本が一番危険という認識で危機に陥るということにならないかと私は大変危惧しています。