相田みつを美術館で学んだこと

2017.05.23発行 Vol.295
先日、東京有楽町の東京国際フォーラムにある相田みつを美術館を、KCゴルフコンペの前夜祭イベントとして、ゴルフに参加されない方も含めてお客さまたちと訪問しました。日本でも珍しい、書だけの美術館ですが、大変勉強になりました。

「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」や「夢はでっかく 根はふかく」、「しあわせは いつも じぶんのこころがきめる」といった平易ですが本質をついた詩で、相田みつをの作品をご存知の方も多いと思います。独特の感性に満ちた詩人であり、書家でもあります。その書は、語弊があるかもしれませんが、子供が大胆に書いたようにも見える読みやすい字が特徴です。

しかし、相田みつを美術館に行き、息子さんである館長さんから説明を受けると、これまでの私が持っていたイメージは大きく変わりました。まず、その書ですが、相田みつをは、20歳前後の頃に、日本を代表する書道展で入選するなど、書道界では非常に技術を高く評価されていました。美術館に彼が若いころ書いた楷書のコピーが展示されていましたが、私のような素人が見ても、とても精緻な素晴らしいものでした。

私は絵を見るのが好きなので、その書を見てピカソを思い出しました。ピカソも若いころの絵は、大胆ですが、とても写実的な絵を描いていました。それが、「青の時代」などを経て「キュービズム」に移行していくのですが、やはり、基礎や写実力が秀でているため、あれだけ画風が変わっても多くの人から評価されたのだと思います。

ひらがなを多用し、子供でも読みやすい字に変わっていった相田みつをの字ですが、自分しかない表現法に到達し、分かりやすさということを前面に出した書であるとも言えます。基礎がしっかりした字だからこそ、あれだけの迫力が出るのでしょう。

そして、彼の大胆な書を見ると、思いついたときに、感性でさっと書き上げていると思われるかもしれませんが、部屋に長時間こもり、自分の周りにそれこそ山ができるほどの作品を書いて、その中から気に入ったものを選ぶということを、毎日繰り返していたそうです。

詩を作るときも、一つの作品を完成させるのに非常に長い時間をかけることがざらで、長期間かけたものだと1年以上をかけて短い詩を完成させていたとのことでした。さらには、独特の書風で書き上げるのですが、先にも述べたように山ができるほどに書いたものの中から一つだけ気に入ったものを選び、それを表装するのです。その際にも、余白を効果的に使うために、紙の上下左右を1ミリ単位の精度で切っていくそうです。ですから、相田みつをの作品では、同じ大きさのものが一点もないと言います。

このように、彼の作品が完成するまでには、詩に対してかける膨大な時間、そしてそれを書にするまた膨大な時間、そして、それを作品として仕上げる際にも、緻密な作業に膨大な時間がかかっているのです。それが、死後26年以上経った今でも、多くの人が評価する理由だということも分かりました。
英語に「Easy come, Easy go」という言葉がありますが、簡単にできてしまうものは、やはり簡単に価値が下がっていくのでしょう。私も物書きを仕事としていることもあり、肝に銘じないといけないことだと思いました。

最後にひとつ、美術館で見て私が気に入った詩を紹介しておきましょう。「当たってくだけろ」という題の詩です。

      「当たってくだけろ」

      かけ声は
      勇ましいけれど
      かけ声をかける
      当人は
      当りも
      くだけも
      しねんだよなあ

               みつを

「指揮官先頭」ということを私は経営者やリーダーたちにお話することが多いのですが、それを違う角度から的確に表現した詩だと感心しました。この詩だけでなく、人の本質を鋭く、しかし、とても分かりやすく表現した詩が相田みつを美術館にはたくさんあります。私のお客さまの中で、その美術館をよく訪問される経営者の方は、「自分が置かれている状況によって、同じ詩でも感じ方が違う」とおっしゃっていました。機会があれば、ぜひ訪問してください。

【小宮 一慶】