現実となった英国のEU離脱と今後の見通し

2016.06.28発行 Vol.273
 皆さんもご存知のように、英国の国民投票でEU離脱派が残留派を上回りました。多くの方同様、残留を予想していた私は、大きな衝撃を受けました。移民のせいで生活が苦しくなり、また、治安も悪化していると思った人たちが、離脱を強く支持しました。ドイツ等が受け入れている難民もいずれ移民となって英国に押し寄せてくるかもしれないことも、不安心理をかきたてたかもしれません。いずれにしても、英国経済や世界経済から見て合理的な選択とはとても思えませんが、ポピュリズムに裏打ちされた国民感情の強さを感じざるを得ません。これは米国のトランプ現象に通じるものがあると言えます。

 離脱が決まった日には、日経平均はじめ世界中の主要株式市場は大幅に下落し、また、避難通貨である円も買われ、一時1ドル=100円を切る水準にまでになりました。週明けの月曜日は、日本での相場は落ち着きましたが、ニューヨーク市場などは続落、しばらくは乱高下が続くのではないでしょうか。

 これで7月末の米国の利上げは遠のきましたが、同時期に行われる日銀の政策決定会合で緩和策が打ち出されるかに注目です。個人的には、政策決定会合を待たずに、もし、再度100円を切るような円高局面になれば、政府・日銀は躊躇なく介入すべきだと思います。また追加緩和策が望まれますが、異次元緩和はほぼ限界だとも感じています。今年度の想定レートを105円と置いているトヨタはじめ、110円としている企業も多く、円高はグローバル企業の業績に少なからぬ影響を与えるのみならず、やっと2000万人台に乗ろうかという訪日客数や「爆買い」に悪影響を与えるのは必至だからです。

 今後の見通しですが、私は英国とEUは早急に「自由貿易協定」を結ぶのが望ましいと考えています。詳細な詰めには時間がかかると思いますが、大きな方針を短期間に打ち出すのが市場や経済を落ち着かせます。自由貿易協定は英国にとってもEUにとっても好都合です。

 まず、英国側から考えれば、経済問題もありますが、大きな懸念はスコットランドの独立でしょう。2年前に独立の是非を問う国民投票が行われましたが、スコットランド独立派は、その際にEUへの加盟を主張していました。今回の国民投票でもスコットランドではEU残留派が多数を占めました。そう言った点で、EU加盟時には守られていた関税撤廃を自由貿易協定で確保することが英国には望ましいのです。また、EU離脱派が強く主張しているのは移民の排斥で、関税復活を望む人はごく少数と考えられますから、離脱派も自由貿易協定はのみやすいと思います。

 また、英国の輸出入のそれぞれ50%ほどは、EU諸国が相手であり、そういった点において、EU側も関税なしを維持するメリットは大きいと言えます。また、EUからの「離脱ドミノ」、さらに、それに伴うギリシャをはじめとする金融危機の再燃をEU側は大変懸念していますが、自由貿易協定の早期締結は、その懸念を一旦は和らげると私は考えています。ただし、協定の結び方次第では、通貨ユーロを使わない非ユーロ圏のEU各国が、EU離脱を求める可能性もあり、それらをうまくけん制できるかがEUにとっては大きな問題となります。

 軍事的にはロシアと対峙しており、EUの結束が崩れることも問題ですが、NATO(北大西洋条約機構)軍のプレゼンスを前面に出すことで当面はしのいでいくことになると考えます。

 いずれにしても、しばらくは市場が動揺すると思います。英国とEUとの新協定締結の動きを注視しなければならないときです。


【小宮 一慶】