東芝の不正会計処理事件と『目的と目標』の違い

2015.07.28発行 Vol.251
 東芝の不正会計事件に関して第三者委員会の調査報告書が提出され、歴代の3人の社長の退任が決まりました。東芝では、リーマンショック後の業績急低下、福島の原発事故による原発事業の先行き懸念、さらにはライバル日立との業績格差の拡大などがあり、トップが「チャレンジ」という圧力を各部門にかけ続けていました。「3日で120億円の利益の改善」というトップの無茶な依頼にも、上からの指示は絶対という社風もあいまって、不正な会計処理が組織的に行われたといわれています。

 私は、根本的には、この東芝の問題は、経営者が企業経営の「目的」と「目標」を混同してしまったからだと考えています。目的と目標は、次のように区別することができます。

 目的とは、「最終的に行きつくところ、存在意義」です。目標は「目的に至るまでの通過点、具体的な評価、目的達成のための手段」です。企業の場合なら、「良い商品やサービスを提供して社会に貢献すること」や「働く人を幸せにすること」が目的で、売上高や利益は目標です。私の人生の師匠の藤本幸邦老師は、よく「お金を追うな、仕事を追え」とおっしゃっていましたが、まさしく目的と目標の違いを明確に指摘されていたのです。その目的と目標が混同され、目標が目的化してしまうと、働く人だけでなく、お客さまや社会にとっても大変不幸なこととなります。

 これは、不正事件などだけのことではありません。働く人が活き活きと働いていなかったり、本来もっと実力が出るような会社がそうでない場合にも、この「目的」と「目標」の混同が起こっていたり、本来の「目的」が忘れられているような場合も少なくないのです。本来目標であるもの、とくに売上や利益が、目的化したときにさまざまな問題が起こることを経営者はしっかりと認識していなければなりません。

 経営者の仕事は、会社を「良くする」ことですが、東芝の経営陣は「良くする」のではなく「良く見せる」ことに腐心し、それが利益操作につながりました。自己の見栄もあったでしょう。そして、東芝の場合も「目標」が「目的」化してしまいました。しかし、これは、他社でも十分に起こりうることです。この問題は、つまるところ経営者自身の考え方や人間性の問題が大きいのです。コンサルタントの大先輩である一倉定先生が、「会社には良い会社、悪い会社はない。良い社長、悪い社長しかない」というのはまさしくそういう意味です。

 今回のような不正を防ぐためには、経営者の、経営者としてだけでなく人間としての教育が必要となります。これをシステム化することは残念ながら難しいですが、結局は経営者や幹部が古典を学ぶなどして「正しい考え方」を持つしかありません。さもなければ、罰則を強化するしかないでしょう。