景気は回復局面だが、成長戦略がカギ

2015.03.10発行 Vol.242
 このところ、セミナーなどでもお話していますが、私は現在緩やかながら回復している日本経済は、春先以降しばらくの間、回復スピードが速まるのではないかと思っています。その主な理由は、「実質所得」の改善にあります。

 実質所得とは、賃金の上昇率から物価上昇率を差し引いたものを言います。たとえば、賃金は1%上がっているのに、物価が2%上昇していれば、実質所得は1%のマイナスということになります。今の事例では、賃金上昇が物価上昇に追いついていないので、1%分「実質的に」国民の生活は貧しくなっているということを意味しています。昨年4月の消費税率上げの当初は、3%程度、最近でも2%強、前年比で物価上昇が続いています。
 
一方、一人あたりの給与所得を表す「現金給与総額」は前年比で1%前後の上昇で、直近でも1.5%程度です。消費税増税後は、実質所得の目減りが続いていました。昨年12月の総選挙の際に、自民党は「賃金は上昇している」と主張し、民主党は「実質所得はマイナス」と主張していたのはこのことです。どちらも間違ったことを言っていたのではありませんが、実質所得が減少し続けているので、GDPの6割弱を支える家計の支出は前年比で大きなマイナスを続けています。そのことが景気の足をひっぱっていました。

 私が、春先以降景気の回復速度がしばらく上がると言っているのは、この実質所得の改善にあります。先ほども述べたように、昨年4月に消費税増税がありましたが、この影響は、前年比で見た場合には今年の4月にはなくなります。もし、消費税以外の物価が昨年と同じであれば、物価上昇はゼロということになります。昨年春ごろに比べて、原油価格も大幅に下がった状況で、現状、消費税上げの影響を除いた物価上昇が、0.2%程度ですが、春にはさらに下がることが予想されます。

 一方、賃金のほうは、企業業績が比較的堅調なこともあり、前年比で少し上昇すると考えられます。そうなれば、これまでマイナスだった実質所得が、4月以降はプラスに転じる可能性があります。仕事を求める人に対する求人の割合を示した「有効求人倍率」も現状1.14倍と極めて高い状況を示しており、賃金上昇の圧力は低くありません。

 このことを考えれば、4月以降は実質所得がプラスとなる状況がしばらく続き、家計の支出も前年比で増加に転じると考えられます。

 また、このところの原油安もあり、円安にもかかわらず円ベースでの輸入額は前年比でマイナスとなっており、一方、輸出は少し増加傾向なので、このことも景気の底上げにつながります。

 一方、インフレ率2%を目指す日銀としては、痛しかゆしの状況で、場合によっては、一段の円安をともなう3度目の「異次元緩和」を行う可能性もあります。しかし、前回の緩和決定時では、9人の政策審議委員のうち4人が反対するというのが現実で、効果よりも将来の副作用のほうが大きくなる懸念があります。

 いずれにしても、これまで行ってきたことはカンフル剤にしか過ぎません。本物の「成長戦略」が効果を表さない限り、日本経済の長期的な復活は望めません。2年前、昨年とそれぞれ出した成長戦略は評価の低いものでしたが、今年6月に出ると言われている成長戦略が、高齢化社会を迎える中で本当に効果のあるものであることを願ってやみません。