日銀の『異次元緩和』は「戻れない賭け」に勝ったのか?

2017.07.25発行 Vol.299
世間では加計問題や北朝鮮問題、トランプ大統領のロシア疑惑などに大きな注目が集まっていますが、忘れ去られた感のある日銀の「異次元緩和」も私たちは忘れてはならないと思っています。

少し、歴史をさかのぼってみます。2012年12月の総選挙で自民党が当時政権政党だった民主党に圧勝しました。翌年、2013年に安倍内閣が実質的に始動しました。3月に黒田日銀総裁が選任され、4月4日の政策決定会合においていわゆる「異次元緩和」が発表されたのです。

その内容は、少し専門的になりますが、日銀券と日銀当座預金(金融機関が日銀に持っている当座預金)の合計である「マネタリーベース」を2年後(2015年3月)までに倍にするというものでした。

当時、日銀券が85兆円、日銀当座預金が50兆円の合計135兆円だったものを、2年間で270兆円にまでするというものでした。日銀券は簡単に増発するとインフレを誘発する可能性が高いので、金融機関が持っている国債を日銀が買い取り、その代金を日銀当座預金に入金するということで、マネタリーベースを増加させようとしたのです。つまり、日銀当座預金というすぐにでも銀行が使える「お金予備軍」を大量に増やすことで、景気浮揚、デフレ脱却を図ろうとしたのです。

私は今でも、この「異次元緩和」の政策が発表された翌日の、日本経済新聞1面に載ったコラムに「戻れない賭け」とあったのを忘れられません。これまでにどの国もやったことのないような大規模な「異次元」の緩和を行おうとしたわけですが、それは「戻れない賭け」だったのです。

それから4年半近くが経ちました。270兆円でも「異次元」と言われたマネタリーベースはすでに400兆円を超えています。しかし、目標とした「2%」のインフレはほど遠く、最近の政策決定会合でもその到達目標を日銀は延期しました。6度目の延期です。黒田総裁は目標達成にいまだに確信を持っているような発言をしていますが、そんなことを信じている国民はほとんどいないでしょう。確かに、デフレはある程度脱却できましたが、名目GDPは今年1月に統計の取り方を変更した以外には大きな増加はなく、本質的にはいまだにリーマンショック前の水準にも到達していません。

私が恐れているのは、欧米では金利が上昇し始めたことです。米国では、短期金利をすでに1%程度にまで上げ、さらには量的緩和も早ければこの秋から縮小が始まります。欧州は、いまだにマイナス金利政策を行っていますが、景気が比較的堅調でインフレ率も正常に戻りつつある中で、金利上昇や量的緩和縮小が取りざたされています。そうした中、日本では、長短金利を0%程度に誘導する緩和をやめることはなかなかできないどころか、毎年80兆円ずつ国債などを日銀が買い上げていることをやめる気配もありません。当面、量的緩和は拡大し続けるのです。

欧米の金利が上がり、量的緩和が縮小されると、日本の異常さがクローズアップされかねません。市場が大きく混乱する可能性もあります。そして、何よりも「出口」がないままに突っ走る日銀の政策の行く末はどうなるのか心配でなりません。

最近、日銀は、量的緩和に懐疑的だった2人の政策審議委員が任期満了で退任しました。反対派勢力がいなくなったのです。そうした中、「戻れない賭け」の結果がどう出るのかに、国民もマスコミももう少し注意をしたほうが良いと私は考えています。

【小宮 一慶】