安倍新政権は金融緩和より産業政策を

2012.12.25発行 Vol.189
 暮れも押し詰まってきましたが、皆さんには慌ただしい日々をお過ごしかも知れません。私はこの原稿を今年最後の出張の新幹線の中で書いています。今年もまだあと少しありますが、おかげさまで何とか乗りきれそうです。

 さて、安倍新政権が発足しますが、日銀へのプレッシャーを強めていることが私にはとても気にかかります。現状の日本の名目GDPは約473兆円です。これはリーマンショック後の世界同時不況に襲われたときとほぼ同じであることを考えれば、景気浮揚策が必要なことは言うまでもありませんが、日銀に強いプレッシャーをかけ、過度な金融緩和をもたらすことは危険をはらんでいます。また、安倍新首相は、2%のインフレターゲットを日銀が飲まない場合には、日銀法の改正もちらつかせていますが、こちらも「通貨の番人」としての日銀の独立を脅かすことにもなりかねないと私は懸念しています。

 世界の主要国の景気指標を見ると、日本以外の国ではインフレ傾向となっており、日本だけがデフレの状況が分かります。こうした中で、デフレからの脱却は急務であることは言うまでもありませんが、私は「2%」のインフレターゲットにはリスクがあると思っています。なぜ「1%」ではいけないのでしょうか。

 「2%」に問題があると考えるのには2つの理由があります。ひとつは、現状、普通国債だけでも700兆円以上の発行残高がありますが、それらは1%を切る水準で取引されています。もし、本当に2%のインフレがもたらされ、市中金利が上昇したら、既発の国債の価格は下落します。日経新聞社の試算では、国債の流通利回りが現状より1%程度上昇すれば、メガバンク3行だけでも2兆円程度の含み損が出るとしています。メガバンクを含め、日本の銀行全体では資産の約20%が日本国債ですから、1%金利が上昇するだけでも大きな含み損を抱えることになります。これは、金融機関の自己資本比率を引き下げますから、貸し渋りなどをもたらす可能性があるとともに、金融不安の引き金ともなりかねません。もしさらに、インフレがコントロールできずに金利が上がれば、このリスクはさらに高まります。日本国債暴落の引き金ともなりかねません。もちろん、企業の利払いも増え、有利子負債の多い企業や業種には大きな負担となります。

 もうひとつ、私が懸念しているのは、インフレが2%になれば、当然これから発行される国債の金利も上昇します。今でも90兆円の一般会計予算のうち約10兆円が利払い費に消えているわけですが、国債の借り換えスケジュールを考えれば、1%でも金利水準が上がれば、数年内にも数兆円利払いが増え、将来的には10兆円近く利払いが増えます。消費税を5%上げることによって得られる税収増は約13兆円ですから、金利が上がれば、消費税上げのかなりの部分が吹っ飛ぶ可能性があります。

 長期間、低金利の中で成り立ってきた日本経済では、金利上昇を前提としない経済が出来上がっており、日銀がこれまで実質的にターゲットとしてきた1%のインフレが当面は適正な水準だと私は考えます。

 先ほど、現状の日本の名目GDPは世界同時不況時とほぼ同じだと述べましたが、実はバブル崩壊直後の1991年ともほとんど同じです。この20年間以上、日本経済は名目GDPの観点からは全く拡大していません。このことを考えれば、金融政策や公共工事中心の景気対策ではなく、もう少し長期的な視点に立った「産業政策」が必要だと私は考えます。国内で製造し、海外に輸出できる「強い」産業を育成することを官民挙げて本気で取り組まなければ、高齢化がさらに進展する中で、財政も経済も成り立たなくなるのではないでしょうか。安倍新政権には、日銀へのプレッシャーや短期的な景気浮揚策だけでなく、強い日本経済を立て直すための産業政策を期待したいものです。