夢や希望を持つ

2015.12.08発行 Vol.260
 私の人生の師匠である、曹洞宗円福寺の藤本幸邦老師の七回忌法要のために、数年ぶりに長野県篠ノ井を訪れました。私たちは、藤本老師のことを「おっしゃん」と呼んでいたので、この稿では、おっしゃんと呼ばせてもらいます。(長野ではお坊さんのことをおっしゃんと呼ぶそうです。)

 七回忌法要に先立ち、児童養護施設円福寺愛育園の活動報告があり、とても感じることがあったので、今回のメルマガではそのことをお伝えしたいと思います。円福寺愛育園は、もともと、おっしゃんが戦後すぐのときに、上野駅で自分が持っていたリンゴをかっぱらおうとした戦災孤児3人を、そのまま汽車に乗せて円福寺まで連れ帰ったのが始まりです。最初はお寺の庫裡で始めたのですが、日本の児童福祉法のひとつのモデルになったとも言われています。現在では小さい子どもから高校生まで数十名の子どもたちが愛育園で育っています。18歳になると卒園です。

 私は今まで何度か愛育園を訪問していますが、今回報告を聞いて、知らなかったこともたくさんありました。その歴史は決して平たんなものではなかったのです。元々、家庭環境に恵まれない子どもが入園してくるということもあり、すぐには心を開いてくれない子も少なくありません。学校で問題を起こす子どもや、中には学校を退学する子、自分より下の子を支配下に置くことも長く続いたそうです。

 問題を抱えながらも、愛育園では長年にわたりおっしゃんはじめ職員さんたちが、必死に子どもたちを支えてきました。そして、おっしゃんが亡くなり、おっしゃんの息子さんである現在の園長になってから、愛育園は大きく変わったそうです。園長が変わった当初は、職員が大量に辞めたり、問題を起こす子もいたのですが、園長や新しく副園長になった職員などが、心血を注いで子どもたちと向き合いました。問題を起こした子と、何時間も話し合いをすることもあったと言います。子どもたちの間の上下の支配関係も、職員の粘り強い努力で解消させました。その結果、前向きになる子どもたちが増えていったのです。

 そして今年、とてもうれしいことがありました。

 高校3年生の男子生徒が、信州大学への推薦入学が決まったのです。愛育園始まって以来のことです。進学後の学費のことなど、本人も悩んだそうですが、愛育園の職員と綿密に話し合い、進学を決めたということです。一般の家庭の子どもなら、勉強や進学する環境は比較的恵まれていますが、愛育園の子どもが、国立大学に推薦で選ばれるということは並大抵のことではないのです。この朗報に、園長はじめ職員は涙を流して喜んだと言います。

 もうひとり、高校3年生の女子生徒は、高校での成績がオール5だと言います。最初は自分に自信がなかったそうですが、職員の励ましもあって、目標を持って前向きに生きることが徐々にできるようになりました。高校の生徒会活動でも認められるようになり、自信が芽生え、とうとう成績もオール5となったと言います。この子は、小さい頃から憧れていた職場に就職が決まり、とてもうれしそうでした。

 二人とも、「夢」や「目標」を持つことの大切さを参列者の前で話してくれました。最初は自信がなかったのが、夢や目標を持ち、そしてそれを少しずつ達成することで、人生そのものにも自信や希望が持てるようになったのです。もちろん、これには、園長、副園長はじめ職員さんたちが、真剣に子どもたちと向き合ったこともあります。

 おっしゃんの七回忌に出席し、愛育園の活動を聞いて、夢や目標を持つことの大切さや真剣に向き合うことで人が変わるということを再認識しました。愛育園の子どもたちがさらに幸せになることを願ってやまないとともに、私たちもさらに一歩踏み込んで生きていかなければと思いました。

【小宮 一慶】