円高か円安か

2016.08.23発行 Vol.277
 9月20日からの日銀の政策決定会合で、これまでの政策(「マイナス金利付き量的・質的緩和」)の総括を行うということで、市場はその結果に大変注目するとともに、このところは神経質な動きを強めています。

 2月の日銀のマイナス金利導入時には114円程度だった為替レートは現状100円くらいまで急速に円高が進みました。仕事柄、「この先の為替レートはどうですか?」と聞かれることがありますが、私は、円安要因と円高要因の両方があると考えています。

 まず、円安要因ですが、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の政策決定機関であるFOMC(連邦公開市場委員会)が利上げを決定するかどうかが大きなカギを握っています。私は、大統領選挙が済んだ12月のFOMCで利上げが決まるのではないかと思っています。このところの米国の景気指標は、絶好調とまではいきませんが、雇用や物価の状況が比較的堅調だと言えます。9月にも利上げが行われるとの考え方がありますが、12月が最も利上げを行いやすいのではないでしょうか。(前提としてクリントン氏が大統領になるということがありますが。)

 もし、米国で利上げが行われた場合、日本は当面金利上げどころか、さらなる緩和に動く可能性もある中、日米金利差拡大の思惑から、米ドルが買われ、円が売られるという図式が考えやすくなります。

 また、日銀が9月の政策決定会合でさらなる緩和策を決めれば円安に振れやすくはなります。しかし、現状、政策の手詰まり感が強く、マイナス金利も銀行から総スカンを食っている中でその深堀も難しく、さらにはこれ以上の国債の買い上げもかなり厳しい中で、円安に振れるような新たな緩和策は出にくい状況です。

 一方、円が買われるシナリオもあります。このところ円が買われる要因は日本経済が強いからではなく、「避難通貨」としての側面が強い状況です。英国のEU離脱時などは円が買われました。米ドルやユーロではないという選択肢として円が買われるのです。

 円が買われるような状況に陥るのは、当面は欧州情勢が大きいと考えられます。私は次の大きな山は10月にも行われる予定のイタリアの国民投票だと私は考えています。この国民投票は、議会の大幅な定数削減などを問うものですが、もしこの国民投票が否決されればレンツィ首相は退陣を発表しています。国民投票は、その内容そのものよりも現政権に対する信任投票の色合いもあり、レンツィ首相が退陣となれば、EU離脱を標榜している「五つ星運動」が躍進する可能性があります。事実、先日行われたローマ市長選では五つ星運動が圧勝しました。万一、イタリアがEU離脱の道を歩むことになれば、その影響は英国よりも大きいでしょう。イタリア経済が良くないことと、イタリアは通貨ユーロを使っているからです。イタリアの銀行などへの資本注入などで、何かあった場合のショックを和らげようとEUは必死になっていますが、どうなるかは分かりません。イタリアの国民投票否決の他に、経済の先行きが不透明となるような事態が起きれば、円高に振れる可能性は高いと言えます。世界経済が厳しい状況になれば、米国も利上げしにくくなりますから、さらに円高に振れやすいと言えます。

 いずれにしても、昨年までは日銀の政策が円安をもたらしていましたが、その賞味期限が切れた現状、円相場の行方に関しては米国の利上げと欧州情勢から目が離せない状況です。

【小宮 一慶】