便利な社会は所得を二極分化させる

2012.02.14発行 Vol.168
 私は普段、都内の移動は電車を使うことがほとんどです。その際にSuicaなどのIC乗車券を使いますが、便利な反面、頭を使わなくなっているのも事実です。以前なら、駅の掲示板を見て、行き先や料金を確認し、その後お金を取り出して券売機で切符を買い、場合によってはおつりを確認し、財布にしまい、改札を通った後は、小さな切符をなくさないように注意するなど、結構いろんなことを考えていました。しかし今は、定期券を自動改札に「ピッ」とタッチするだけで、ある程度の金額がチャージされていれば、料金の確認もほとんどしません。

 便利なのはこれだけではありません。私は移動が多いため出張時にはモバイルのパソコンを持っていきます。私は結構物もちが良いので、以前のモバイルパソコンを昨年の秋まで3年間ほど使っていました。そのパソコンをイスタンブールの空港のセキュリティで取り出した時に、床に落としてしまい壊してしまったので、新たに同機種の新型を買って驚きました。スピードが速いだけでなく、インターネットへの接続がすごく簡単になっているのです。以前の機種だと、モバイル用の通信カードを入れていたのが、今のでは、WiFiにパソコンが自動接続してくれます。ほとんど何も考えずに済みます。10年ほど前だと、モバイルパソコンやLANケーブルを持って行っても、海外のホテルでは接続に苦労し、場合によってはモジュラージャックにケーブルを接続しても結局インターネットにつながらないということも何度かありました。

 本当に便利な社会なのですが、ここに私は大きな落とし穴があると思っています。つまり、考えなくて済む社会が生まれているのです。便利さの裏に、ものを考えないで済む状態が生まれているので、日常生活のかなりの部分で思考力を必要としないのです。思考力とともに熟練度も必要としなくなっています。

 このことは、多くの職場でも言えることです。コンピュータの発達が、事務作業などを単純化させています。たとえば、以前なら経理作業に携わる人は、「貸方、借方」など複式簿記の基礎知識がなければ帳簿への記入はできませんでしたが、今は、目の前の伝票を指示通りに入力するだけで、財務諸表まで作れます。スーパーの店頭では以前は「レジ打ちの達人」がいましたが、今は、今日入社した人でも10年選手と同じ作業ができます。そして、このような技術進歩によって単純化された職種の大半は非正規雇用者で賄われるようになりつつあります。だれでもできるからです。

 ピーター・ドラッカーが言うまでもなく、今の時代は「知恵」の時代です。いかに知恵が出るかが、その人やその人が属する会社の価値を高め、知恵の価値がどんどん高まっている時代です。しかし、その反面、単純化された労働も増えつつあるのも事実です。知恵を出す人たちと、その知恵によって生み出されて非常に便利なツールを使いながらも、単純化された仕事を行う人たちとの間では非常に大きな給与格差が生まれつつあるのです。

 知恵優位の時代がやってきていますが、便利な時代であるがゆえに、このことが所得の二極分化をますます加速させるのではないかと自動改札機を通ると私は危惧しています。