一生分、もったいない

2015.04.14発行 Vol.244
 今年も4月を迎え、新入社員研修で4カ所のところで講演をさせていただきました。このところ景気が回復しており、とくに新入社員の求人状況は「超」が付くほどの「売り手市場」となった中での研修でした。

 毎年、新入社員さんがこの先の長いビジネスパーソンとしての期間を、幸せに生きられるようにと思いながら、生き方や仕事についての考え方をお話しします。今年も私の話を聞いてくれた多くの人たちは、とても熱心に聞いてくれたのですが、一部の人たちは、肘をついて聞いたり、中には眠っている人たちもいたことをとても残念に思いました。

 もちろん、入社早々ですから、疲れていたり、学生気分が抜けないのは、ある意味仕方のないことでもありますが、聞く態度ができていない人は、私の話以外も、他の方からのお話でもおそらく同じような態度で聞いているのではないかと思うと、とても心配になりました。

 松下幸之助さんは、素直になって「聞く」ということは、「人の知恵を自身に取り入れること」とおっしゃっていますが、聞く姿勢を持たない人は、自分の小さな知恵だけでこの先の人生を生きていかなければならなくなります。また、さらに松下幸之助さんは、人の話を聞けない人は、他人の知恵を活かせないこと以外に、話を聞かないので、「人がそのうちに話をしてくれなくなり」、その延長線上で「人が協力してくれなくなる」ともおっしゃっています。

 もちろん、新入社員でもとても熱心に聞いてくれている人も少なくなく、同じスタート台に立っていても、これからの長いキャリアで大きな差がついていくのだろうと思いながら、お話をしていました。他人の話を聞いて自分の知恵としない人は、大きな損をしていると気づいていないのでしょうが、とてももったいないことだと思います。

 先にも述べたように、今年は超売り手市場の中で入社してきた人たちです。実力が抜群にあって、どこの企業でも入社できたというような人は別として、普段の景気の状況より「一段階」レベルの高い会社に入社している人も少なくありません。1980年代後半から90年代前半のバブル期と同じ状況です。人事担当者に話を聞いても、「採用にずいぶん苦労した」とおっしゃる方がほとんどです。

 そうした中、先輩や今後入ってくる後輩たちが資質的には高い人たちが多い中で、この先40年以上の長いキャリアを歩まなければならない人も少なくありません。資質が低い分だけ、他の人の知恵や力を借りなければならない人も少なくないでしょうが、人の話を聞けない人は、そもそもその基本中の基本の「ベース」ができていないのです。

 東洋哲学の大家である安岡正篤先生は、「人は、その聞く態度を見れば、その人物の練れ具合が分かる」と書いておられましたが、聞くということはそれほど難しいことでもあります。私たちも、素直さ、謙虚さを忘れずに、聞く姿勢に注意しなければなりませんね。