『マイナス金利』政策はもうしばらくの見極めが必要

2016.02.09発行 Vol.264
 日銀が1月末の政策決定会合で「マイナス金利」を導入しました。民間銀行が日銀に預ける日銀当座預金の金利を、今後預ける分からマイナス0.1%にするというものです。つまり、日銀には預けずに、その分を銀行は貸し出しや株式投資に回して欲しいということです。導入直後は、円安・株高に振れましたが、1週間も経たないうちに、為替、株式市場は緩和前の水準に戻りました。「元の木阿弥」という声も聞かれますが、これだけをもって「効果が薄い」という判断をするのは早計です。もちろん「マイナス金利」は政策決定会合で9人の委員のうち4人が反対したことでも分かるように、これまでの「異次元緩和」が「カンフル剤」だとすれば、「マイナス金利」は「劇薬」です。ただし、今後しばらくはその成否を見極める必要があります。下記の2つのシナリオとその中間的なものが考えられます。

 まず、見落とされがちですが、今回の「マイナス金利」とともに「異次元」とまで呼ばれている「量的緩和」も継続されるということは重要です。新しい政策を「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」と呼んでいるのはそのためです。つまり、「マイナス金利」に並行して、従来通り年間80兆円、毎月6から7兆円程度の国債を民間銀行から買い入れ、その代わり金を日銀当座預金に入金するということです。

 良いシナリオとしては、銀行は日銀に預けたお金がマイナスになるのはもちろん嫌ですから、即座にそれを引き出し、貸し付けや株式購入などに動くことです。そうなれば、これまで以上に、低金利で金回りが良くなり、株式相場も上がり、景気拡大に動きやすいということになります。また、日米金利差の広がりから円安になれば、輸出企業を中心に業績が上がり、さらに、景気、株価も上昇するということです。これが日銀が望んでいるシナリオです。

 もちろん、悪いシナリオもあります。これまでの低金利下でも、銀行の貸し出しはそれほど伸びていません。それが、さらに0.1%程度金利が下がったからと言って、簡単に企業の借り入れが増加するということはなかなか考えにくい状況です。それなら銀行は、国債を売って得た資金で株式を買うかと言えば、株式には価格変動リスクがあり、しかも、企業業績が伸びなければ長期的には株価は上がりません。そういう状況では、銀行はマイナス0.1%の金利でも日銀に預けておいたほうがマシだと考える可能性は低くありません。また、そういう状況になれば、金利がわずかでもある国債を保有し続けるほうが賢明だと考え、国債を日銀に売らない可能性もあります。そうなると、景気も良くならず、株価も低迷、銀行の収益が落ちていくだけということにもなりかねないのです。市場に流通する国債の量が極端に減った中で、日銀が大量の国債を買い続ければ、国債市場が乱高下することも懸念されます。

 こうして考えると、今後、円安に振れるかどうかが大きなカギです。今回のマイナス金利により円安に振れれば、企業業績も上がり、株価も上昇しやすくなります。そうなれば、銀行も貸し出しも増やしやすいし、株式にも投資しやすくなります。ただし、米国も昨年末に政策金利を上げたものの、現状は世界経済や米国経済の状況から一本調子に金利を上げられる状況ではないので、この先円安に振れるかどうかは微妙です。

 今後は、ドル‐円相場が円安に振れるかどうかと、銀行の動きとして、現状250兆円程度の日銀当座預金が増えるかどうか(数字は、日経新聞朝刊の株式欄にある「短期金融市場」というところに掲載されています)に注意が必要です。マイナス金利でも日銀当座預金が増えるようなら、これは先ほど説明した悪いシナリオで、日銀はさらに金利のマイナス幅を大きくしていくでしょう。いずれにしても、金融緩和や日本経済は新たなステージ突入です。

【小宮 一慶】